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コラム・レポート

vol.1 ボタンの掛け違い

皆様こんにちは。私は某チェーンのバイヤーです。今回から、MDON社さんのコラムにスペースをいただき、小売業と製造業、バイヤーとメーカーセールスが、発展的にコラボしていくために、どうすれば良い関係作りが出来るか、どのように協業体制を築いていけばよいかを、小売業者の立場から、また私自身の経験から助言をさせていただき、日々の業務改善のお役立ち出来るようなコラムを作ってみたいと思います。反対に学問的なことや、体系的に整理された方法論的なことは書けないかもしれませんが、実践で一度使ってみる価値はあるかな、程度に受け止めていただければ、こちらとしても肩に力が入らず、気軽に作っていく事が出来ると思います。

今回は、最初という事で、メーカーのセールスさんがよく直面する、「何故バイヤーは私の言っていることをわかってくれないのだろう?」、「あのバイヤーなに考えてるのかわからない」、「なんではっきり良い悪いって言ってくれないのだろう」、「バイヤーの反応みてても商談結果報告まとめられないよ」、「商談の時たいした感触がなかったのに、いきなり発注が上がってきて逆に困った」、なんて経験された方も多いかと思います。

それは相手先のバイヤーの経験不足やキャラクター、勉強不足に負う場合も多いとは思いますが、ビジネスの現場で人間性を前面に出して言い訳していても何も解決しませんので、少なくとも以下の事を振り返ってみて、今まで正しくアプローチしていたかどうか、自問自答しながらご自身の理解を見直してみてください。

☆☆ ボタンの掛け違い ☆☆

始めに小売業者の担当者が、バイヤーであれ、店舗の売場担当者であれ、どのような数値責任を持っているか、考えてみて欲しい。

99%のバイヤーは部門、またはカテゴリーの仕入れ担当者である。店舗でも自分の担当「売場」を任されている。つまり彼ら(彼女ら)は同じ品種の複数の商品をマネジメントしている。

つまり小売業者にとって、単品、SKUは担当部門、カテゴリーの数値予算を達成するための要素に過ぎない。もちろん、ネスカフェや日清カップヌードルのように、その商品を売り込まないと、カテゴリーの予算が達成できない例外的なガリバー商品もあるが、それでも更なる数値改善を行おうとすれば、新しい要素(商品)を探さなくてはならない。それもカテゴリーの数値予算を達成するために、である。

単品を前年対比で150%売ろうが、エンドでカッコよく大陳しようが、担当部門の売上、利益が予算達成できなければ、小売業のバイヤー、売場担当者は怒られるのだ。
またある商品だけ大量に売場にあって、その周辺の商品が売場で品切れしていたら、誰にも褒められないのだ。
まずもってこれが小売業の基本であって、考え方なのだ。

反対にメーカーの営業マンは、単品を売る事によって、目標数値を達成しなくてはならない。必然的に商談も単品の売り方、値段が中心となる。そしてその商品がバイヤー、売場にどの程度貢献できるかというストーリーを描いた話となる。
メーカーのセールスにとって、他社の商品がどのような売られ方をしようが、いくらで売られようが、自社の商品の邪魔にならない限りあまり関心はなく、自社の商品が少しでも有利な場所とスペースでお客様に提供されている事、それに伴って小売の仕入数量が増える事が第1優先事項のはずである。

ここに始めの一歩としての、「ボタンの掛け違い」が発生しているのがお分かりいただけるかと思う。この両者の発想、アクション、責任の違いをお互いに理解して、市場を盛り上げるために何が出来るかを考えて日々マーチャンダイジング活動をすることが、メーカーと小売の協業につながる事を理解していただきたい。

かつてウォルマートとP&G社のパートナーシップが有名だったが、このきっかけも、ウォルマートとP&G社のトップ同士が、目的としているところは「カテゴリー(市場)のシェア拡大」という同じ目的を目指して仕事している事に気がついて始まった取り組みであり、カテゴリーをどのように形成していくか、単品がカテゴリーにどう貢献するかという、企業としての両社の役割分担を明確に決めて、ボタンのかけ違いを解消していったのだ。

全ての小売業が全てのメーカーとパートナーシップを結ぶ事、その逆にメーカーが全ての小売業とパートナーシップを結ぶ事は不可能な話であるが、日々の仕事の中で相手先を理解し、ビジネスパートナーとして、目的、課題、達成感を共有できる関係を築く事は可能な事である。
それを目指してがんばりましょう。

☆☆ 温度調整 ☆☆

つまり言い方を換えると、小売業者は森の大きさを見てから植える木を考える、製造業者は木の植え方を考え、森を構成する発想となる。
(これは商談の場での話で、メーカーの商品企画、マーケティング関連部署の方々は市場動向、消費者調査を実施されているはずだが、商談の現場で活用されているケースは少ない。決してメーカーは木を見て森を見ずと言っているわけではございませんのでご了承ください)

これは両者とも企業の本質として仕方のないことで、どちらが正しいという事ではない。

だが、小売業者と製造業者が協業して、商品を消費者に売り込み、生活に貢献しようとするならば、このボタンのかけ違いから発生する温度差を克服しなくてはならない。
消費者、生活への貢献という目標にベクトルを合わせなくてはならないということである。

カテゴリーの予算を達成するために、数多くのメーカーと、大量の商品を商談し、企画を考えるバイヤーと、単品を売るために、企画を考えて目標を達成しようとするメーカーセールスとでは、おのずと求める企画の内容やものの売り方、考え方が違ってきてしまう。
では温度差を調整するためのコンバータをどのように考えるべきか。

☆☆ 体温を合わせるか合わせてもらうか ☆☆

このように商品、売り方、企画の考え方に「ズレ」が生じていては、お客様に支持される売場、店舗は作れない。
お客さんが沢山来て、沢山商品が売れるから、小売業者も製造業者も目標を達成できるのである。

温度差を調整し、成果を挙げるためには、メーカーのセールスは、その小売業者、バイヤーが担当するカテゴリーとは何かを理解する必要がある。

たとえば一言で「菓子」とか「簡便食品」とか部門やカテゴリー名称を表現する事は簡単だが、各小売業によって、微妙にそのくくりや内容が違っていて当然である。

「菓子」では一般的に流通干菓子のことを指している小売は多いと思うが、半生の菓子、たとえばケーキのようなものはどこで扱っているのであろう。たいていは日配食品だが、仕入れ担当のバイヤーは同じかもしれない。

また「菓子」はその小売業のなかでは何を求められているのか。●お客様をひきつける強力な売場(ディスティネーション売場)なのか、●品揃えを重視し買い上げ点数の下支えをする売場なのか(ルーティン)、これは地域や競合環境によっても異なるので、小売業というより店舗ごとに違いがあるのかもしれない。

しかし商談や取り組みの前に、その小売業がそのカテゴリーとバイヤーに対して求めているものを理解することなく、いきなり企画や商品の売り方を説明しだしては、すれ違いが発生する可能性は大である。

前任者から担当企業を引き継ぐ時には、当然その企業におけるそのカテゴリーの位置づけやバイヤーの考え方まで必要という事になる。

またその小売業の中で、貴方の担当するカテゴリーは、拡大路線にあるのか、利益改善の段階に来ているのか、縮小均衡となっているのか、それだけでも知った上で商談、企画の持込をすれば、バイヤーとの温度差は縮むであろうし、「目線」が一致するであろう。

☆☆ 体温を合わせてもらう ☆☆

しかしながら製造業もきちんとしたマーケティング調査によって商品を作成している。商品を生み出したその背景、狙いを小売業に理解してもらう事も重要である。それによって小売業の体温をメーカー側に合わせてもらい、売場作りや商品構成を食い立て直すという事も重要である。

ただしその場合には、タイミングが大切である。小売業のバイヤーが、まだ担当カテゴリーにどういう方向に持っていくか判断を迷っている段階で、その説明をしなくてはならない。
あるいは、春夏向け、秋冬向けに新製品が大量に発売される時期には、必ず商談の場だけではなく、自社の商品企画部、マーケティング部のメンバーを同席させて、メーカーとして研究しているカテゴリーの考え方や動向を理解してもらうというアプローチも絶対必要となる。

とは言ってみたものの、「バイヤーは忙しくてなかなか会社まで来てもらえない」とか、「当社はNo1メーカーではないから来てもらえない」とか、言い訳がついてくるものである。しかしここで知恵を絞るのも営業マンとして一皮剥けるためのステップである。本当の目的は会社に来てもらう事ではなく、カテゴリーの動向、商品開発の背景を理解してもらう事なのだ。会社に来てもらわなくても、それを説明できるようにするために、企画開発メンバーを商談に同行させる、ビデオを作成する、わかりやすい資料を準備するなど、方法論は沢山ある。

再度強調するが、目的は、メーカーとしてのカテゴリー調査、商品開発の背景、その商品を消費者に買っていただくことによって生活にどのような影響を出して行きたいのか、などを相手に理解させ、その小売業の売場で表現、具現化できるようにするため、バイヤーの体温を自分たちの体温に近づけてもらう事なのだ。

消費者であるお客様が、普段どのような生活を望んでいるか、またどのような新機軸を求めているか、その結果生み出された新製品である事を正しく説得できなくてはならない。さらに注意しなくてはならないのは、カテゴリーの成長、拡大に貢献できる事を正しく説明できるように理論武装と準備を十分して欲しい。

毎週やるのが良いか、毎月が良いのかはそのカテゴリーの平均的な商品回転率に応じて判断してください。
商品回転日数が20日、30日を越えるカテゴリーで毎週分析しても、かえって間違った判断をしてしまいますので、適切なサイクルの検討が必要です。
当然相手先小売業者の業態にも配慮する必要があると思います。

☆☆ 次回は ☆☆

次回は、もう少しバイヤーの品揃え計画に対する考え方、品揃えの組み立て方について話をさせていただこうと考えています。
ではまた。

2005年8月 1日 11:09

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